私が初めて自分のビットを持ったのは、2023年の4月でした。フットケアの仕事がしたくて、個人事業で開業届を出してを始めました。
事業を始めるにあたり、スクール出来ちんとフットケア技術を習おうと思い、スクールオブペディという6ヶ月のコースに入りました。その時、初めてのフットケア道具が一式がセットになっていたんです。
欲しかったグラインダーや指モデル、ビットやニッパーがたくさん入っていて、嬉しくてワクワクしたのを覚えています。
道具を持ってから、使い方もわからないまま、個人事業を行なっていたわけではなく、6ヶ月間という長いスクールでの講座を受けてから、使いました。毎日通っていたわけではなく、動画で学び、受講者同士で相手モデルで実技を練習し、症例を提出して、合格試験を受けて——という工程をきちんと踏みました。
それでも、個人事業を初めて、三人目のお客様の訪問ケアでつまずきました。
爪は、顔と同じです。十人十色。
どれだけ講義を受けても、どれだけセミナーに出ても、現場で出会うお客様の爪は、いつも「初めて出会う爪」なんです。
この記事は、これからグラインダーを使い始める看護師さんに向けて書いています。道具の話だけでなく、洗浄から保管までの全工程まで書きました。長くなりますが、ここまで書いてある記事が見つからなかったので、自分で書くことにしました。
訪問で、うまく削れなかった
三人目のお客さまの依頼をいただいたのは、サービス付き高齢者住宅にお住まいの、肥厚爪の方でした。
セットに入っていた粗目のクリスマスツリー型セラミックで削り始めたのですが、まったく進みません。時間だけが過ぎていきます。
原因のひとつは、姿勢でした。
足台を使っての施術です。スクールで練習していたときより、目線が少し視線が上からになる。すると、爪の角度も、足裏の状態も見えにくいんです。
見えないから、手が震える。怖いから、回転数も上げられない。ウラワのG3を使っていましたが、ダイヤルは1〜5のうち、2くらいでした。(10000回転くらい)
このとき助けられたのが、円柱型の中目です。削りすぎないので、爪甲面にも安心して当てられました。
スクールと現場では、姿勢が違う。
当たり前のようですが、これに気づくまで時間がかかりました。同じところでつまずいている方は、まず「見えているか」を確認してみてください。
出血させてしまった話
失敗もしています。
爪溝を、三角に尖ったクリスマスツリー(ダイヤモンド細目)で削っていて、出血させてしまったことがあります。
原因は3つでした。
- 見えにくい姿勢だったこと
- 角質軟化剤で柔らかくなっていることが、頭では分かっていても手が分かっていなかったこと
- ビットを立てて使ってはいけないという感覚が、まだなかったこと
とても分厚くて、変形した爪でした。細目では削れない。焦っていました。その焦りが、そのままビットを立てる動きになってしまったんです。
それから三角のビットは、しばらく使えませんでした。
今はもう、どう使えばいいか分かります。先の尖ったビットも使えるようになりました。でも、あのときの感覚は今でも覚えています。
だからこそ、はっきり書いておきます。
削れないときは、無理に削らない。
削れないのには理由があります。ビットが合っていないか、姿勢が悪いか、そもそも今日削るべきではないか。焦って力を入れた瞬間が、いちばん危ないです。
そして、この失敗のあとで分かったことがあります。爪溝には、爪溝用のビットを使えばよかったのです。
今、実際に使っている5本
商品を並べるのではなく、削る順番で紹介します。
肥厚爪:削る順に3本
① とにかく厚いとき — スカルプ狂 パワーオフビット スモールオーバルXXC
型番 WS-001 / BB49116|税込3,080円(通常4,235円)|WSPT JAPAN
まず、この1本で厚みを落とします。ここで無理をしないことが大事です。削れないなら、姿勢かビットが合っていません。
② 少し削ったあと、端を整える — クリスマスツリーセラミック PEDI
000862|税込2,970円|WSPT JAPAN
ある程度厚みが取れたら、こちらに持ち替えて端を削ります。セラミックなので、研磨時の熱が皮膚に伝わりにくいのも、この工程では効いてきます。
③ 人数が多い日の予備 — セラミックスシェル 粗目
FOT-49-0017|直径6.0mm|税込4,180円|佐鳴
用途は①とほぼ同じです。訪問で何人も回る日は、こちらも一緒に持っていきます。軸に緑の線が入っているので、バッグの中でも一目で分かります。
爪溝・サイド:2本
④ BUSCH ダイヤモンド円柱・中目
| 品番 | 直径 | |
|---|---|---|
| 大 | 840 055 | φ5.5mm |
| 小 | 841 035 | φ3.5mm |
小は商品管理番号2707401、150グリッド、軸径2.35mm、推奨回転数20,000rpm。
爪溝でいちばん出番が多いのが、小さい方(φ3.5)です。大小2本持っていますが、使うのはほとんど小。爪溝は狭いので、φ5.5では入りません。
出血させてしまったときに使っていたのは、三角に尖ったビットでした。今は、先が丸い小さな円柱を当てています。爪溝には、尖ったものを差し込むのではなく、丸いものを添わせる。形が変わっただけで、怖さがなくなりました。
⑤ ハビッツ フィンガーチップ0番
商品コード80574|税込参考価格3,850円|ネイルパートナー(mantarow_labo監修)
足の指まわりの角質ケアに使えるビットです。
合計すると
この5本で、税込およそ22,000円です。
決して安くはありません。でも、使わないビットが入った大量セットを買うより、結果的には安く済みます。

なぜAmazonの8本セットを勧めないのか
Amazonで「フットケア ビット」と検索すると、8本セットで数千円のものがたくさん出てきます。
安いので、つい手が伸びます。私も気持ちは分かります。
ただ、それらの多くはネイル(甘皮処理・ジェルオフ)を主な用途にしたものです。高齢者の肥厚爪や変形爪を削ることを想定していません。
削れないビットで削ろうとすると、どうなるか。力が入ります。そして、力が入ったときに事故が起きます。私がそうでした。
上に挙げた5本は、どれもAmazonや楽天では扱いがありません。専門店から買う必要があります。手間ですが、そこは省かないほうがいいと思っています。
なお、この記事で紹介した商品は、私が実際に購入して使っているものです。紹介料は一切いただいていません。
同じビットを何本も持つ、本当の理由
肥厚爪用に、似た用途のビットを2本持っています。予備というより、理由があります。
ビットは、1人ごとに交換します。
使ったものは、その場では洗いません。というより、洗えません。午前と午後で施設や個人宅を回るので、途中に洗浄できる場所がないからです。
なので、使用済みのニッパーとビットは、ジップロックに入れて持ち帰ります。
このとき使っているのが、サラヤの「パワークイック 予備洗浄スプレー」です。詰め替えて持ち歩き、使い終わった器具に噴霧してから袋に入れます。
これは消毒ではありません。汚れが乾いて固まるのを防ぐためのものです。血液や角質が乾いて固着すると、あとで洗っても落ちにくくなります。落ちないまま先に進んでも、意味がありません。
つまり、帰ってから正しく洗うために、現場でやっておく前処理です。
1人1本ずつ交換するとなると、当然、本数が要ります。「なぜ同じようなビットを何本も持つのか」の答えは、ここにあります。
洗浄から保管までの全工程
帰ってから何をしているか、順番に書きます。
| 1 | 訪問先:1人ごとに交換。予備洗浄スプレーを噴霧してジップロックへ |
| 2 | 蛋白除去剤に30分浸漬(袋のまま) |
| 3 | ブラシで用手洗浄 |
| 4 | 超音波洗浄機 |
| 5 | アルコール噴霧 |
| 6 | 食器乾燥機で乾燥 |
| 7 | ビットケース・スタンドへ。次回分を人数ごとに小分け |
② 浸漬(30分)
使うのは、佐鳴の「洗いさん」です。蛋白除去剤です。
帰宅したら、300〜600倍の希釈液を作って、ジップロックのまま30分浸けます。
| 希釈倍率 | 500mlあたり |
|---|---|
| 300倍 | 約1.7ml |
| 600倍 | 約0.83ml |
| 20倍 | 25ml |
※製品の使用説明を必ずご確認ください。

③ ブラシで洗う
20倍希釈の洗いさんで手洗いします。用手洗浄用に、20倍希釈液をポンプ式の容器に作り置きしています。
使っているブラシは、100円ショップのものです。先が細い形と平たい形があると、ビットの目にも入ります。
④ 超音波洗浄機
最後に超音波洗浄機にかけます。
⑤〜⑦ 乾燥と保管
アルコールを噴霧し、乾燥させて、ビットケースとスタンドに戻します。
乾燥に使っているのは、食器乾燥機です。
スクールに入学したとき、「すぐに必要なもの」として教えてもらいました。フットケア専用の乾燥器を探す必要はなく、家庭用の食器乾燥機で十分です。私はそのまま買って、今も使っています。
自然乾燥より確実で、水滴が残りません。水が残ったままケースに戻すと、そこからサビます。
次の訪問に備えて、人数分をあらかじめ小分けしておきます。現場で数えている余裕はないので、ここで仕分けておくと当日が楽です。
変色は、洗い残しのサインでした
これに気づくまで、時間がかかりました。
以前は、ブラシで洗うだけでした。乾かしてアルコールを噴霧すると、器具がサビたり、セラミックのビットが茶色くなったりしていたんです。
消毒の仕方が悪いのだと思っていました。でも違いました。
洗い残しがあったんです。
蛋白除去剤に浸けるようになってから、変色はなくなりました。
もし今、サビや変色が出ているなら、消毒ではなく洗浄を疑ってみてください。
8万円の失敗
超音波洗浄機は、2023年に約8万円で買いました。病院でフットケアをしていた頃に使っていたメーカーのものです。お湯の温度が設定できます。
正直に言うと、これは失敗だったと思っています。
ネイリストの方たちは、もっと安価なものを使っていました。同じことができるなら、そちらで十分でした。「病院で使っていたものだから安心」という判断が、そのまま値段に乗ってしまいました。
一方で、すぐに買ってよかったのは食器乾燥機です。スクールで「まず用意して」と言われたものでした。
そして、いちばん働いているのは100円のブラシです。
道具の値段と、役に立つ度合いは、必ずしも比例しません。

正直に書いておきます:私は滅菌をしていません
ここまで洗浄の話をしてきましたが、最後まで正直に書きます。
私は今、オートクレーブを持っていません。超音波洗浄機のあとは、アルコールを噴霧しているだけです。
アルコール噴霧は「消毒」であって、「滅菌」ではありません。
そして私が扱っているのは、爪を切るニッパーと、爪溝を削るビットです。どちらも血液に触れる可能性があります。実際に、私は出血させた経験があります。
一般に、血液に触れる可能性のある器具は、滅菌が求められる区分に入ります。つまり、今の私のやり方は、十分とは言えません。
それでもこれを書くのは、同じ状態の方が多いと思うからです。「訪問でやっている人はみんなオートクレーブを持っている」わけではありません。隠して書かないほうが、役に立つと思いました。
そのうえで、これから始める方に言っておきたいことがあります。
私は8万円を超音波洗浄機に使い、オートクレーブは持っていません。
病院勤務時代に使っていたものを購入しましたが、もっと安価なものでも良かったと思っています。
感染管理については、私は専門家ではありません。勤務先の感染対策の担当者や、感染管理認定看護師の方に相談するのが確実です。私自身、これから整えていくつもりです。
訪問・施設がサロンと違う4つのこと
道具の話をしましたが、環境の違いも押さえておいてください。
| サロン | 訪問・施設 | |
|---|---|---|
| 粉塵 | 集塵機で吸える | 居室内。食事前後は特に飛ばせない |
| 電源 | 手元にある | 遠い/ベッド周りが塞がっている |
| 姿勢 | 座って正面から | 足台・しゃがむ・かがむ。見えにくい |
| 洗浄 | その場で洗える | 途中に洗える場所がない |
ネットで見つかるフットケアの情報は、ほとんどがサロン向けです。前提が違うので、そのまま真似ると私のようにつまずきます。
買う前に確認すること
グラインダー本体
私はウラワのG3を使っています。ダイヤルは1〜5で、肥厚爪でも2〜3程度です。10000回転前後が推奨されています。
厚い爪の場合は、回転数を上げれば削れる、ではありません。上げるほど熱が出ますし、コントロールも難しくなります。
施設ごとの取り決め
看護師であっても、施設によってグラインダー使用の可否や事前の取り決めが異なります。導入前に必ず確認してください。
対応の範囲
糖尿病や末梢の血流に問題がある方、抗凝固薬を使用中の方などは、主治医の指示の範囲を確認したうえでの対応になります。
判断に迷う所見があれば、無理に処置せず、医師や専門の外来につなぐ。これがいちばん安全です。
同意書
私は、サービスに入る前に同意書をいただいています。医療行為ではないこと、皮膚の状態によっては痛みや熱さを感じる場合があること、皮膚疾患が疑われる場合はお断りする場合があること——こうしたことを、始める前に文書で共有しておくようにしています。

まとめ
- 爪は顔と同じで十人十色。講義を受けても、現場の爪は初めて出会う爪
- スクールと現場は姿勢が違う。見えにくいと手が震える
- 削れないときは、無理に削らない
- 爪溝には、爪溝用のビットを
- 最初は5本、約22,000円。大量セットは要らない
- ビットは1人ごとに交換。だから同じものを複数持つ
- サビや変色は、洗い残しのサイン
- 洗浄機より先に、滅菌のことを考える
【こちらの記事も参考にしてください】

